ロボトミー手術 桜庭章司。 ロボトミー殺人事件は精神外科手術によって感情を失った桜庭章司による復讐劇。

ロボトミー手術とは?前頭葉切除実験の現在…史上最悪ノーベル賞 [精神外科]

ロボトミー手術 桜庭章司

脳神経外科については「」をご覧ください。 精神外科(せいしんげか)とは、かつての治療法として流行した、を切り取るを行うことにより、による患者治療が行えるとした分野であった。 代表的なものに ()(ロボトミー)がある。 かつては、精神外科の名のもとに爆発性精神病質などの診断を受けた患者に対し、情動緊張や興奮などの精神障害を除去する目的で前頭葉白質を切除する手術(ロボトミー)が実施されていた。 しかし、が父親の命令で前頭葉白質を切除する手術を受けたところ後遺症を負うなど、のちに前頭葉切截術(ロボトミー)の問題点が明らかとなった。 前頭葉切截術(ロボトミー)が禁忌とされるに至った経緯についてはを参照。 なお、語源については、人を「 robot 」 のようにしてしまうからロボトミーという誤解が一部ある。 ロボトミー(lobotomy)は、肺や脳などで臓器を構成する大きな単位である「葉(lobe)」 を一塊に切除することを意味する外科分野の術語であり、ロベクトミー(lobectomy, 葉切除)と同義である。 当項目のロボトミーでは「前頭葉切除」を意味し、「大脳葉にある神経路を1つ以上分断すること」と定義される。 肺がんなどのため肺の一部を葉ごと切除(例:肺下葉切除)することもロボトミーの一種であるが、臨床ではロベクトミー(肺葉切除術、肺葉切除)の方が用いられる。 術式 [ ] 種類 [ ] モニス術式 が考案した術式。 両側頭部に穴をあけ、ロボトームという長いでを切る。 経眼窩術式 が考案した術式。 眼窩の骨の間から、の様な器具を前頭葉部分に到達させ、を無造作に切断する。 を壊さず、外側から見える傷跡がないというメリットがあった。 眼窩脳内側領域切除術 が開発した術式。 生理学的観点から [ ] 当時の標準的なロボトミーの術式は、前側頭部の頭蓋骨に小さい孔を開け、ロイコトームと呼ばれたメスを脳に差し込み、円を描くように動かして切開するというものであった。 と他の部位(辺縁系や前頭前野以外の皮質)との連絡線維を切断していたと考えられる。 前頭前野は、意志、学習、言語、類推、計画性、衝動の抑制、社会性などをヒトたらしめているの主座である。 歴史 [ ] 欧米 [ ] 、ジョン・フルトン(John Fulton)とカーライル・ヤコブセン(Carlyle Jacobsen)が、において前頭葉切断を行ったところ、性格が穏やかになったと、で行われたで発表したのを受け、同年、の医が、ので外科医の(Pedro Almeida Lima)と組んで、初めてにおいて前頭葉切截術(をのその他の部分から切り離す手術)を行った。 その後、のでも、 Walter Jackson Freeman II 博士の手によって、で初めてのロボトミー手術が、激越性患者(63歳の女性)に行われた。 また生還したとしても、しばしば発作・人格変化・無気力・抑制の欠如・衝動性など、重大かつ不可逆的な障害が起こっていた。 しかし、フリーマンと James W. Watts により術式が「発展」されたこともあり、難治性の精神疾患患者に対して、熱心に施術された。 にはモニスにが与えられた。 しかし、その後、の発明とが発見されたことと、ロボトミーの予測不可能な不可逆的副作用の大きさと批判が相まって規模は縮小し、ではが無いと看做され、廃止に追い込まれる。 また、モニス自身もロボトミー手術を行った患者に銃撃され重傷を負い、諸々の施術が(当時としては)に近かった事も含め、医学上の槍玉に挙げられ、外科手術が廃れる事になる。 日本 [ ] では(17年)、(後の医学部)のによって初めて行われ 、中および戦後しばらく、主に患者を対象として各地で施行された。 しかし、(昭和50年)に「精神外科を否定する決議」がで可決され、それ以降は行われていない。 なお、このロボトミー手術を受けた患者が、のないまま施術したの家族を殺害するという事件が発生している()。 精神医学教室で、ロボトミーを受けた患者のでは、全体が空洞化されており、スカスカだったという。 当時解剖した患者で一番多かったのはであった。 なお、同教室の医師が他の医師と手術の統計をまとめようとしたところ、手術記録やが、何処にも見当たらなかったという。 これは前出のロボトミー否定の学会決議を受け、病院側が資料を破棄したものと見られている。 日本精神神経学会の1975年(昭和50年)の精神外科を否定する決議でロボトミー手術の廃止を宣言したことから、のにおいて、精神疾患に対してロボトミー手術を行うことは、上である。 しかし、の一つ、の声明()では『の「精神科の治療指針」(昭和42年改定)はロボトミーなど精神外科手術を掲げており、この通知はいまだ廃止されていない。 』と主張している。 年表 [ ] 以下は『東大病院精神科の30年』 28-43頁ほかによる。 (昭和13年)- 、開始。 (昭和22年)- 、でロボトミー開始。 (昭和25年 - (うてな ひろし)の研究でロボトミー()。 (昭和32年)- A氏、でロボトミー。 (昭和38年)- S氏、(ロボトミーの一種)を(=)で強行され、1979年に「」を起こす。 (昭和46年) - (精医連)実行委員長・講師(当時)のが、臺弘東京大学教授(当時)が行った20年前のロボトミー手術関連実験(『』)を告発。 (昭和48年) - が『台実験』を「医学実験として到底容認しえないものである」と決議する。 1973年(昭和48年) - 闘争(精神外科問題提議)。 1973年(昭和48年) - M氏、ロベクトミー裁判開始(守山十全病院)。 M支援会、ロベクトミー糾弾。 (昭和49年) - A支会 準 結成(横手興生病院ロボトミー糾弾)。 (昭和50年) - が 精神外科を否定する決議を可決(賛成473票、反対0票、保留39票)。 ロボトミー手術の廃止を宣言。 (昭和53年) - ロボトミー判決(院長と執刀医に賠償金の支払いが命じられた)。 (昭和54年) - (ロ全共)結成。 精神外科を取り上げた作品 [ ]• の漫画『』では精神外科 の開発した の描写がある第58話「快楽の座」が単行本未収録となっている。 他にも未収録の作品はあるが、文庫版や他の書籍での収録や改作などが行われていないのはこの作品のみである。 この話の中ではは脳に電気刺激を与えたのみにも関わらずという語の誤用に対して障害者団体であるなどから「ロボトミーを美化している」と抗議が来たためと一説では言われるが 、実際の漫画では手塚は精神外科に対し否定的な描写をしている。 また、単に言葉が使われているだけ、しかも誤用されているもの(これは「快楽の座」も同様)として、第41話「」がある。 これは単行本(旧版少年チャンピオン第4巻)に収録されていたが、後に、「からだが石に…」に差し替えられた。 医学博士で作家のによる『脳は語らず』は、に日本の大学で行われ、後で週刊誌などに取り上げられた「事件」に発展したロボトミー手術をドキュメンタリータッチで描いた小説である。 映画「」では、ロボトミー手術を受け廃人になる登場人物の姿が描かれている。 脚注 [ ]• 葉とは、大脳では前頭葉や側頭葉、頭頂葉などから構成され、肺では上葉、下葉などから構成される。 ステッドマン医学大辞典改訂第5版(メディカルレビュー)• の妹は、先天性の軽いを患い、体面を気にした父親ジョセフにより、ロボトミー手術を無理矢理受けさせられた。 『東大病院精神科の30年』 28頁によると、「(昭和13年)新潟大学ロボトミー開始(中田瑞穂)」とある。 『精神保健従事者団体懇談会特別フォーラムに参加された皆様へ』全国「精神病」者集団 2010年1月22日閲覧• 『封印作品の謎 少年・少女マンガ編』、2017年1月24日。 関連項目 [ ]• - -• BMI,BCI• 参考文献 [ ]• 『東大病院精神科の30年…宇都宮病院事件・精神衛生法改正・処遇困難者専門病棟問題』(原著2000年1月)。

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ロボトミー手術はなぜ行われたのか?「禁じられた脳治療」

ロボトミー手術 桜庭章司

ロボトミー手術は、頭の両側に穴をあけ、その穴にロボトームという長いメスをいれて前頭用を切除するという外科手術の一種である。 前頭葉は、意志や言語の理解、計画性、怒りや悲しみという衝動の抑制等、ヒトの社会性を司る器官であり、そこを切る事で凶暴な精神疾患者や自殺癖のある鬱病患者に絶大な効果があったと言われている。 また「人間の精神を奪いロボットのような状態にしてしまうのでロボトミー」という説が囁かれているが、これは誤解である。 ロボトミーという言葉は、肺や脳などで臓器を構成する大きな単位である「葉」を一塊に切除することを意味している。 いわゆる外科の術語だ。 また、日本では別名、チングレクトミー手術ともいう。 今回の記事で言うのロボトミーでは「前頭葉切除」を意味する。 癌のため、肺の一部分を葉ごと切除する事も、ロボトミー手術のひとつであるとも言える。 また、この手術がきっかけで殺人事件がおきた過去もある。 世界初のロボトミー手術は、1935年に、ヒトではなくチンパンジーに行われた。 チンパンジーの前頭葉切断を行ったところ、普段とても凶暴だったチンパンジーの性格がとても穏やかになったとの報告があったのだ。 この報告をうけ、同年にポルトガルの神経科医であるエガス・モニスと、外科医であるペドロ・アルメイダ・リマがタッグを組み、初めてヒトを利用し前頭葉の切除を実行した。 さらに1936年には、ジョージ・ワシントン大学でも、ウォルター・フリーマン博士の下、アメリカで初めてのロボトミー手術が行われた。 対象者は、63歳の激越性うつ病患者の女性だったという。 1930年台当時は、精神疾患は治療が不可能と思われたが、ウォルター・フリーマンの手術によって、ある程度は抑制できるという結果がでた。 後遺症や副作用には目もくれず、世界的に注目されることとなる。 しかし蓋をあけてみると、現在と違いレントゲンもない時代である。 現在のように脳の中をカメラや写真で見ることもできない状態で、ウォルター・フリーマンたちは無理矢理頭蓋骨に穴を開け、前頭葉を切除するという非常に乱暴で実験的な手術を行っていた。 また、それによりモニスは世界で広く知られた。 その名声はノーベル賞受賞という形で最高潮に達する。 エガス・モニスの前頭葉の一部分を切除する治療法(発案された当時はロイコトミーと呼ばれていた)を、知ったウォルター・フリーマンは、エガス・モニスを師匠と仰ぐようになった。 そしてそれを「ロボトミー」と呼ぶ術式に発展させた。 また、ロボトミーを開始して10年後、ウォルター・フリーマンは、イタリアの精神科医アマロ・フィアンベルティの論文より、眼窩(眼球を収める頭蓋骨のくぼみ)を経由して脳に到達する技法を知った。 それを使えば、頭蓋骨を砕く事なく脳にメスを入れる事ができるのである。 この新しい技法について実験を行った後、ウォルター・フリーマンは「経眼窩ロボトミー」を完成させる。 本人いわく、ウォルター・フリーマンは3500件のロボトミー手術に携わったという。 1979年、9月の出来事である。 元スポーツライターだった桜庭章司(当時50歳)が、ロボトミー手術(チングレクトミー手術)を受けたことで自身の人間性を奪われたとして、執刀医の殺害を目論み医師の自宅に押し入った。 執刀医の妻と母親を拘束し、執刀医本人の帰宅を待つが、帰宅しなかったことから妻と母親をナイフで殺害。 金品を奪って逃走する。 偶然、池袋駅で職務質問した警察官に、銃刀法違反の現行犯で逮捕され事実が明らかとなった。 1993年、東京地裁で無期懲役の判決が下る。 しかし検察側・桜庭章司側双方が控訴、1995年に東京高裁が控訴を棄却したため、桜庭章司側が上告するも1996年に最高裁で無期懲役となった。 チングレクトミー手術は、患者の攻撃性や爆発性を選択的に除去する効果があるという大義名分のもとに手術が行なわれてきた。 ロボトミー手術と同様、患者の頭皮を開いてから頭蓋骨を切り取って脳硬膜を開き、大脳間裂を広げて外科的な傷を加える手術をチングレクトミー手術という。 犯人である桜庭章司が、何故この手術を受ける事となったのか、筆者は背景を追ってみる事にした。 彼は、1992年1月1日、長野県松本市で次男として生まれた。 子供の頃から神経質なところがあったが、気が強く明るい子だったという。 小学校卒業後、東京高等工学校(現・芝浦工業大学)付属工科学校に進学したが、家庭の生活を支えるため、1年で退学して就職することとなる。 1945年(終戦の頃)、松本市に戻り、町のジムでボクシングの練習をやり始めた。 19歳の時点で、社会人ボクシング選手権大会出場して優勝する程の腕前があったという。 その後彼は、20歳のときから、独学で英語を勉強しはじめた。 「これからは英語の時代」を確信して通訳の資格を取得したという。 すぐに彼の英語力は評価され、占領軍基地のある電話局に通訳として就職した。 その後、米軍のOSI(諜報機関)にスカウトされ、さらに英語力に磨きをかけたという。 これもすべて、貧困に苦しむ家庭を救うためだったのだ。 猛勉強したのだろう。 だが、病躯の母親の面倒を見るため、松本に帰ることになった。 松本には英語を生かす職場がなかったため、体力に自信のある桜庭は日銭稼ぎに土木作業員として働くことになった。 桜庭は土木作業を続けているとき、路肩工事の手抜きを発見した。 生真面目な精神をもつ彼は、それを班長に注意すると、その夜、桜庭は社長に呼ばれ小料理屋に連れて行かれて、5万円を握らされた(当時では大金である)。 なんとその後、桜庭は警察に逮捕されたという。 路肩工事の手抜きを不正とし抗議した際、口止め料の5万円を受け取り、これを会社は恐喝行為として訴えたのだ。 この事件がきっかけで、一度彼は刑務所に収監される。 出所後は翻訳の仕事から、海外スポーツライターとして活動を始め、事務所を開いて実績を積んでいった。 精神病質と鑑定された桜庭章司は精神科病院に入院となった。 病院内で知り合った女性がロボトミー手術の副作用により人格が変わってしまい、その後自殺したことに正義感の強い彼は激怒した。 執刀医を問い詰めた際、彼は危険だとしてロボトミーの一種、チングレクトミー手術を強行される。 この医師は、桜庭章司の母親に詳しく説明せずに手術の承諾書にサインをさせたといわれている。 退院後、彼はスポーツライターに戻ったが、感受性の鈍化や意欲減退などの副作用でまともな記事を書けなくなった。 精神を蝕まれながらも後遺症に悩まされ強盗事件を起こす。 出所後も彼は後遺症と副作用に悩み続け「ロボトミー手術(チングレクトミー手術)の問題点を世間に知らしめる」という意思の下、犯行に及んだ。 裁判で再び精神鑑定を受け責任能力有りと判定された。 しかし検査の際、脳内に手術用器具が残留していたという。 当然、脳波に異常がある事も明らかとなった。 桜庭章司は「無罪か死刑でなければロボトミー手術(チングレクトミー手術)を理解していない」として無罪か死刑のどちらかを望んでいた。 しかし、1996年に最高裁で無期懲役が確定となった。 精神疾患と前頭葉に深い関わりがあるという理論は、現在でも支持されている理論である。 実際に、脳に電気刺激を与えるという電気けいれん療法(ECT)は、重いうつ病や躁病あるいは緊張病(統合失調症のあるタイプ)の患者に対して、実際に行われている。 抗うつ薬が効かない。 あるいは副作用がでてやめてしまったりした人。 ほかの治療法でも効果がない人。 食べることや飲むこと等、当たり前の事もできなくなってしまい、生命を維持するため事が困難となり危険にさらされている場合に行われる。 治療の内容としては、こめかみにつけた電極を通して電流が脳に流れ、発作(けいれん)を起こさせるもので、当たり前だが慎重に行う。 患者が怪我をすることはまずないと言っていいだろう。 また、電流を流すので、麻酔薬や筋弛緩薬(筋肉の緊張をゆるめる薬)を使い、治療中は麻酔薬で眠った状態のままだという。 普通、ほかの治療法ですべて効果が見られなかった場合や、以前にこの治療法でよくなった方に対して行っている。 「電気を脳に通す」というだけで一歩のけぞってしまうが、筆者が前章で紹介した、直接前頭葉をグリグリ切り取るようなロボトミー手術よりはかなり進歩したのではないだろうか。

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ロボトミーの歴史と事件 精神外科の犯罪 【これは洗脳と関係がありそうなので】

ロボトミー手術 桜庭章司

ロボトミー手術は、頭の両側に穴をあけ、その穴にロボトームという長いメスをいれて前頭用を切除するという外科手術の一種である。 前頭葉は、意志や言語の理解、計画性、怒りや悲しみという衝動の抑制等、ヒトの社会性を司る器官であり、そこを切る事で凶暴な精神疾患者や自殺癖のある鬱病患者に絶大な効果があったと言われている。 また「人間の精神を奪いロボットのような状態にしてしまうのでロボトミー」という説が囁かれているが、これは誤解である。 ロボトミーという言葉は、肺や脳などで臓器を構成する大きな単位である「葉」を一塊に切除することを意味している。 いわゆる外科の術語だ。 また、日本では別名、チングレクトミー手術ともいう。 今回の記事で言うのロボトミーでは「前頭葉切除」を意味する。 癌のため、肺の一部分を葉ごと切除する事も、ロボトミー手術のひとつであるとも言える。 また、この手術がきっかけで殺人事件がおきた過去もある。 世界初のロボトミー手術は、1935年に、ヒトではなくチンパンジーに行われた。 チンパンジーの前頭葉切断を行ったところ、普段とても凶暴だったチンパンジーの性格がとても穏やかになったとの報告があったのだ。 この報告をうけ、同年にポルトガルの神経科医であるエガス・モニスと、外科医であるペドロ・アルメイダ・リマがタッグを組み、初めてヒトを利用し前頭葉の切除を実行した。 さらに1936年には、ジョージ・ワシントン大学でも、ウォルター・フリーマン博士の下、アメリカで初めてのロボトミー手術が行われた。 対象者は、63歳の激越性うつ病患者の女性だったという。 1930年台当時は、精神疾患は治療が不可能と思われたが、ウォルター・フリーマンの手術によって、ある程度は抑制できるという結果がでた。 後遺症や副作用には目もくれず、世界的に注目されることとなる。 しかし蓋をあけてみると、現在と違いレントゲンもない時代である。 現在のように脳の中をカメラや写真で見ることもできない状態で、ウォルター・フリーマンたちは無理矢理頭蓋骨に穴を開け、前頭葉を切除するという非常に乱暴で実験的な手術を行っていた。 また、それによりモニスは世界で広く知られた。 その名声はノーベル賞受賞という形で最高潮に達する。 エガス・モニスの前頭葉の一部分を切除する治療法(発案された当時はロイコトミーと呼ばれていた)を、知ったウォルター・フリーマンは、エガス・モニスを師匠と仰ぐようになった。 そしてそれを「ロボトミー」と呼ぶ術式に発展させた。 また、ロボトミーを開始して10年後、ウォルター・フリーマンは、イタリアの精神科医アマロ・フィアンベルティの論文より、眼窩(眼球を収める頭蓋骨のくぼみ)を経由して脳に到達する技法を知った。 それを使えば、頭蓋骨を砕く事なく脳にメスを入れる事ができるのである。 この新しい技法について実験を行った後、ウォルター・フリーマンは「経眼窩ロボトミー」を完成させる。 本人いわく、ウォルター・フリーマンは3500件のロボトミー手術に携わったという。 1979年、9月の出来事である。 元スポーツライターだった桜庭章司(当時50歳)が、ロボトミー手術(チングレクトミー手術)を受けたことで自身の人間性を奪われたとして、執刀医の殺害を目論み医師の自宅に押し入った。 執刀医の妻と母親を拘束し、執刀医本人の帰宅を待つが、帰宅しなかったことから妻と母親をナイフで殺害。 金品を奪って逃走する。 偶然、池袋駅で職務質問した警察官に、銃刀法違反の現行犯で逮捕され事実が明らかとなった。 1993年、東京地裁で無期懲役の判決が下る。 しかし検察側・桜庭章司側双方が控訴、1995年に東京高裁が控訴を棄却したため、桜庭章司側が上告するも1996年に最高裁で無期懲役となった。 チングレクトミー手術は、患者の攻撃性や爆発性を選択的に除去する効果があるという大義名分のもとに手術が行なわれてきた。 ロボトミー手術と同様、患者の頭皮を開いてから頭蓋骨を切り取って脳硬膜を開き、大脳間裂を広げて外科的な傷を加える手術をチングレクトミー手術という。 犯人である桜庭章司が、何故この手術を受ける事となったのか、筆者は背景を追ってみる事にした。 彼は、1992年1月1日、長野県松本市で次男として生まれた。 子供の頃から神経質なところがあったが、気が強く明るい子だったという。 小学校卒業後、東京高等工学校(現・芝浦工業大学)付属工科学校に進学したが、家庭の生活を支えるため、1年で退学して就職することとなる。 1945年(終戦の頃)、松本市に戻り、町のジムでボクシングの練習をやり始めた。 19歳の時点で、社会人ボクシング選手権大会出場して優勝する程の腕前があったという。 その後彼は、20歳のときから、独学で英語を勉強しはじめた。 「これからは英語の時代」を確信して通訳の資格を取得したという。 すぐに彼の英語力は評価され、占領軍基地のある電話局に通訳として就職した。 その後、米軍のOSI(諜報機関)にスカウトされ、さらに英語力に磨きをかけたという。 これもすべて、貧困に苦しむ家庭を救うためだったのだ。 猛勉強したのだろう。 だが、病躯の母親の面倒を見るため、松本に帰ることになった。 松本には英語を生かす職場がなかったため、体力に自信のある桜庭は日銭稼ぎに土木作業員として働くことになった。 桜庭は土木作業を続けているとき、路肩工事の手抜きを発見した。 生真面目な精神をもつ彼は、それを班長に注意すると、その夜、桜庭は社長に呼ばれ小料理屋に連れて行かれて、5万円を握らされた(当時では大金である)。 なんとその後、桜庭は警察に逮捕されたという。 路肩工事の手抜きを不正とし抗議した際、口止め料の5万円を受け取り、これを会社は恐喝行為として訴えたのだ。 この事件がきっかけで、一度彼は刑務所に収監される。 出所後は翻訳の仕事から、海外スポーツライターとして活動を始め、事務所を開いて実績を積んでいった。 精神病質と鑑定された桜庭章司は精神科病院に入院となった。 病院内で知り合った女性がロボトミー手術の副作用により人格が変わってしまい、その後自殺したことに正義感の強い彼は激怒した。 執刀医を問い詰めた際、彼は危険だとしてロボトミーの一種、チングレクトミー手術を強行される。 この医師は、桜庭章司の母親に詳しく説明せずに手術の承諾書にサインをさせたといわれている。 退院後、彼はスポーツライターに戻ったが、感受性の鈍化や意欲減退などの副作用でまともな記事を書けなくなった。 精神を蝕まれながらも後遺症に悩まされ強盗事件を起こす。 出所後も彼は後遺症と副作用に悩み続け「ロボトミー手術(チングレクトミー手術)の問題点を世間に知らしめる」という意思の下、犯行に及んだ。 裁判で再び精神鑑定を受け責任能力有りと判定された。 しかし検査の際、脳内に手術用器具が残留していたという。 当然、脳波に異常がある事も明らかとなった。 桜庭章司は「無罪か死刑でなければロボトミー手術(チングレクトミー手術)を理解していない」として無罪か死刑のどちらかを望んでいた。 しかし、1996年に最高裁で無期懲役が確定となった。 精神疾患と前頭葉に深い関わりがあるという理論は、現在でも支持されている理論である。 実際に、脳に電気刺激を与えるという電気けいれん療法(ECT)は、重いうつ病や躁病あるいは緊張病(統合失調症のあるタイプ)の患者に対して、実際に行われている。 抗うつ薬が効かない。 あるいは副作用がでてやめてしまったりした人。 ほかの治療法でも効果がない人。 食べることや飲むこと等、当たり前の事もできなくなってしまい、生命を維持するため事が困難となり危険にさらされている場合に行われる。 治療の内容としては、こめかみにつけた電極を通して電流が脳に流れ、発作(けいれん)を起こさせるもので、当たり前だが慎重に行う。 患者が怪我をすることはまずないと言っていいだろう。 また、電流を流すので、麻酔薬や筋弛緩薬(筋肉の緊張をゆるめる薬)を使い、治療中は麻酔薬で眠った状態のままだという。 普通、ほかの治療法ですべて効果が見られなかった場合や、以前にこの治療法でよくなった方に対して行っている。 「電気を脳に通す」というだけで一歩のけぞってしまうが、筆者が前章で紹介した、直接前頭葉をグリグリ切り取るようなロボトミー手術よりはかなり進歩したのではないだろうか。

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