まほ やく pixiv。 #4 まほやく再録4

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前々からやってみたいと思ってたことを試してみようと思って。 「ちょっとだけ屈んでもらってもいいですか?」 「何々?」 可笑しそうに笑いながら、屈んでくれる彼に、ちょっと背伸びをして、ふわふわの髪を乱さないように気をつけながら、いいこいいこと撫でた。 「え」 「ふふふ、いつもお疲れ様です。 お医者さんのフィガロがいるからみんな安心して討伐に行けますね」 「俺が撫でることはあっても、撫でられることはそうそうないから、なんだか新鮮だなぁ」 そう言って、フィガロは私の頭をよしよしと撫でててくれる。 「!」 「賢者様も、いつも頑張ってて偉い偉い」 「えへへ、なんだか恥ずかしいです。 小さい子になった気分」 「賢者様が恥ずかしいんだから、俺はもっと恥ずかしいんだけどな」 頬を掻いて照れる姿もかっこいいなぁって思ってしまうあたり、私もこの人にゾッコンだ。 「でも、ちょっとだけ残念」 「何がです?」 「屈んでくれ、なんて言うからさ」 そう言って、私の耳元に口を寄せると、「キスしてくれるのかな?って思っちゃった」と呟いた。 思わず、かぁぁっと頬が赤くなる。 「ふふ、賢者様、可愛いねぇ」 また、よしよしと撫でられる。 これって完全に子供扱いされて揶揄われてる!私だってやれば出来るもん!まさにそんな子供じみた対抗心で、フィガロの腕をグイッと引っ張ると、頬にちゅっとキスをした。 「!」 「わ、私だって…ちゃんと出来ます!」 プイと横向いて、チラリと彼を一瞥すると、頬を染めて「参ったな」と呟いている。 やった!気分はまるで勝ったつもりで、ふふんと上気分になっていると、ぐっと腕を引かれて唇が重なる。 「んんっ!」 「お返し」 「もうっ!フィガロ!」 「ははは、顔が赤いよ賢者様」 「むー」 「ごめんごめん、揶揄ってるわけじゃないよ。 本当に可愛いなと思ってね」 「…フィガロはいつもずるいです…」 いつだって彼は何枚も上手で、私は到底敵いっこない。 背伸びしても、彼には敵わない。 私の大好きな人。 [newpage] 『独占したいほどの』ネロ晶 翌日の朝食の仕込みを終えて、タオルで手を拭うと、キッチンを後にする。 本でも読もうかと思い立ち談話室に向うと、ブラッドがどかっと座って向かいのソファを眺めていた。 「何ニヤニヤしてるんだよ、ブラッド」 俺の言葉が聞こえると、ちらりとこちらを一瞥して、また笑いながら視線を戻す。 一体何を面白がってるんだ?そう思い、俺が近づくと、 「よぉ、こいつ寝ながら百面相してるぜ」 顎で指し示す方向には、賢者さんが座っていた。 膝に本を乗せて、うたた寝している。 さらさらの前髪が少し顔にかかって、表情は読み辛いけれど、どうやら幸せな夢を見ているようでふにゃりと笑った。 「こんなとこで眠っちまって…」 「本を開いたらすぐおねんねしてたぜ」 きっと、疲れていたのだろう。 可愛い寝顔に思わず頬がゆるんだ。 ぴくりと彼女の頭が動き、声が溢れる。 「ん…ねろぉ」 甘えたような寝言に、自分の名前を呼ぶその声音に、思わずドキリとする。 彼女がこういう声を聞かせてくれるのはベッドの中でだけなので、素面で聞くと思わず頬が赤くなる。 「おーおー、お熱いことで」 「うるせぇ」 揶揄うブラッドを軽く睨んでやったが、今の俺の表情では逆効果かもしれない。 「へいへい、邪魔者は消えてやるよ」 ニヤりとしながら手をヒラヒラ振って、ブラッドが出て行くのを確認して、賢者さんの頭を撫でる。 一生懸命こっちの文字を勉強して、たくさん本を読んで色んなことを吸収しようとしている、純真で努力家の普通の人間の女の子。 慣れない異世界での料理もとても頑張っていると思う。 贔屓目抜きにして。 「あんまり無理するなよ」 前髪を耳にかけて額に優しくキスを落とすと、「んぅ」と呟いて身動ぎするが、また、すぅすぅと愛らしい寝息が聞こえて来る。 ここでずっと寝かしておくわけにも行かないし、起こすのも可哀想で、そっと彼女を抱きかかえると、俺は自分の部屋に向かった。 賢者さんの部屋ではなく、彼女を自分の部屋に連れてきてしまうあたり、俺も相当だなと、苦笑する。 相変わらず規則的な寝息をたてている彼女をベッドにそっと下ろすと、自分もその脇に腰掛ける。 嗚呼、なんて可愛いんだろう。 柄にもなく純粋にそんな風に思ってしまう。 それだけ、俺には彼女が眩しいのだ。 寝入るには窮屈そうなブラウスの1番上のボタンを外すと、彼女の白い肌が晒される。 他意はなかったのだが、隙間から覗く鎖骨に色付く赤に、思わず息を飲んだ。 それは昨晩彼女に刻んだ、自分のモノだという証。 「俺以外の前で、あんまり無防備な姿を見せないでくれよ」 この歳になって、こんな青臭い感情を持つだなんて思ってもみなかった。 「ねろぉ…ん、すき」 ふにゃりと笑った寝顔に完全にノックアウトされた俺は、思わず彼女の唇を塞いだ。 柔らかなそれをたっぷり堪能して、解放する頃には、瞳に涙の膜を張った愛らしい彼女が頬を紅潮させて、困ったような顔で俺を見上げていた。 「ね、ろ?」 「愛してるよ、賢者さん」 状況が理解出来ない彼女をベッドに縫い付けて、ブラウスのボタンを丁寧に外していく。 嗚呼、本当に俺は彼女に心底惚れている…。 自分の感情を追い払うように、彼女の唇をもう一度塞いだ。 [newpage] 『優しい指先』ブラ晶 「い、いひゃいれす、にゃにするんれすか、ぶらっどりー」 ケラケラと笑いながら、むにーと頬を引っ張られて、私は抗議の声を上げたけれど、それはほぼ言葉になっておらず…。 むにむにと弾力を確かめるように遊ばれているほっぺたがちょっとだけひりひりする。 「お前、ほんと能天気な顔してんなぁ」 「むぅ」 ぱっと離された手をじとっと眺める。 男らしい手だなぁとまじまじと眺めていると、 「んだよ、俺の手がどうかしたか?」 「いや、ブラッドリーの手は大きいなぁと思って」 「あ?普通だろ?」 「いや、やっぱ大きいですって」 差し出された手に自分の手を重ねてみても、かなり大きさに違いがある。 レノックスもそうだけど、ブラッドリーも男らしい手をしているんだなぁ。 「色んなモンをぶっ潰して来た手だ。 怖いか?」 「ん、怖くなんてないですよ。 こんなに温かくて、優しい手なんです。 今までブラッドリーがどんなことをしてきたのか、私は詳しく知らないですけど。 今のブラッドリーは、優しくて頼りになる、私にとって大切な賢者の魔法使いです」 そう言って、ブラッドリーの指先に、自分の指先を絡めてぎゅっと握った。 「お前さぁ、自覚ねーの?」 「ふぇ?」 「なんでもねーよ」 ブラッドリーは片手でぎゅっと私の手を握ったまま、もう片方の手でまたほっぺたをむにーと引っ張った。 「らから、なんれひっぱるんれすか」 「お前が悪い」 「なんれ…ひろい」 思い当たる節は全くなくて、思わず涙目になる。 でも、私は知ってる。 彼が加減して私の頬に触れてくれていることを。 優しい指先が自分に触れるのが嬉しくて、思わずふにゃりと笑ってしまう。 「おい、なんでそこで笑うんだよ。 気持ち悪りぃぞ」 「ひろい」 「ははっ、揶揄いがいのあるヤツ」 やっと解放されたほんの少しひりひりする頬を片手で押さえながら、私は嬉しくなって笑ってしまう。 彼にとって、揶揄う対象というのは、きっと嫌われてはいないのだろうと思って。 「んー、やっぱり好きです。 すごく好き」 「…は?」 「ブラッドリーの手です。 男らしくて、優しくて、ちょっと意地悪で、でもあったかいから」 へらりと笑うと、ブラッドリーは何故かムスッとして、 「手だけかよ」 とボソッと呟いた。 「そんなわけ無いですよ、私が風邪っぽい時はブランケットを出してくれるし、オズとミスラが戦ってて危ない時は私を助けてくれるし、優しいブラッドリーのこと私は、大好きですよ」 「あー」 ブラッドリーはそれを聞くと満足そうにフフンと笑って。 「そりゃそうだろう。 このブラッドリー様だからな」 うんうん、と頷いて納得している。 この自信満々さも、彼の美徳の一つだよなぁと思いながら。 「ブラッドリーは、私のことどう思いますか?」 「そうだなぁ、ちんちくりんなガキ」 「えっ」 思わずガーンと効果音が流れそうになる。 「…だけどまぁ、一丁前に色々頑張ろうとしてて、可愛げがあるんじゃねぇの?」 「なんか他人事なんですけど!!」 「ハッ」 「んもー!!」 「ったく、聞かなくてもわかんだろう。 この俺様が恋人繋ぎしてやってんだぞ」 「?なんですか?」 「なんでもねーよ」 「えー、教えて下さいよ」 「お前がイイ女になったら考えてやるよ」 「もう!またそうやって子供扱いして!」 ぷんぷんと怒りながら、ポカポカブラッドリーの胸元を叩くけれど、全く響いている気配がない。 いつか絶対見返してやる!と思っても、今はこの軽口が言える距離感が絶妙な気がして。 でも、もっと彼に近付きたいという気持ちも捨てきれなくて。 「こんなに好きなのになぁ」 「あ?」 「何でもないですー!」 「んだと!」 先ほどまで、繋いでいた手をぎゅうっと抱きしめて、私はプイとそっぽを向いた。 赤くなった頬を見られないように。

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前々からやってみたいと思ってたことを試してみようと思って。 「ちょっとだけ屈んでもらってもいいですか?」 「何々?」 可笑しそうに笑いながら、屈んでくれる彼に、ちょっと背伸びをして、ふわふわの髪を乱さないように気をつけながら、いいこいいこと撫でた。 「え」 「ふふふ、いつもお疲れ様です。 お医者さんのフィガロがいるからみんな安心して討伐に行けますね」 「俺が撫でることはあっても、撫でられることはそうそうないから、なんだか新鮮だなぁ」 そう言って、フィガロは私の頭をよしよしと撫でててくれる。 「!」 「賢者様も、いつも頑張ってて偉い偉い」 「えへへ、なんだか恥ずかしいです。 小さい子になった気分」 「賢者様が恥ずかしいんだから、俺はもっと恥ずかしいんだけどな」 頬を掻いて照れる姿もかっこいいなぁって思ってしまうあたり、私もこの人にゾッコンだ。 「でも、ちょっとだけ残念」 「何がです?」 「屈んでくれ、なんて言うからさ」 そう言って、私の耳元に口を寄せると、「キスしてくれるのかな?って思っちゃった」と呟いた。 思わず、かぁぁっと頬が赤くなる。 「ふふ、賢者様、可愛いねぇ」 また、よしよしと撫でられる。 これって完全に子供扱いされて揶揄われてる!私だってやれば出来るもん!まさにそんな子供じみた対抗心で、フィガロの腕をグイッと引っ張ると、頬にちゅっとキスをした。 「!」 「わ、私だって…ちゃんと出来ます!」 プイと横向いて、チラリと彼を一瞥すると、頬を染めて「参ったな」と呟いている。 やった!気分はまるで勝ったつもりで、ふふんと上気分になっていると、ぐっと腕を引かれて唇が重なる。 「んんっ!」 「お返し」 「もうっ!フィガロ!」 「ははは、顔が赤いよ賢者様」 「むー」 「ごめんごめん、揶揄ってるわけじゃないよ。 本当に可愛いなと思ってね」 「…フィガロはいつもずるいです…」 いつだって彼は何枚も上手で、私は到底敵いっこない。 背伸びしても、彼には敵わない。 私の大好きな人。 [newpage] 『独占したいほどの』ネロ晶 翌日の朝食の仕込みを終えて、タオルで手を拭うと、キッチンを後にする。 本でも読もうかと思い立ち談話室に向うと、ブラッドがどかっと座って向かいのソファを眺めていた。 「何ニヤニヤしてるんだよ、ブラッド」 俺の言葉が聞こえると、ちらりとこちらを一瞥して、また笑いながら視線を戻す。 一体何を面白がってるんだ?そう思い、俺が近づくと、 「よぉ、こいつ寝ながら百面相してるぜ」 顎で指し示す方向には、賢者さんが座っていた。 膝に本を乗せて、うたた寝している。 さらさらの前髪が少し顔にかかって、表情は読み辛いけれど、どうやら幸せな夢を見ているようでふにゃりと笑った。 「こんなとこで眠っちまって…」 「本を開いたらすぐおねんねしてたぜ」 きっと、疲れていたのだろう。 可愛い寝顔に思わず頬がゆるんだ。 ぴくりと彼女の頭が動き、声が溢れる。 「ん…ねろぉ」 甘えたような寝言に、自分の名前を呼ぶその声音に、思わずドキリとする。 彼女がこういう声を聞かせてくれるのはベッドの中でだけなので、素面で聞くと思わず頬が赤くなる。 「おーおー、お熱いことで」 「うるせぇ」 揶揄うブラッドを軽く睨んでやったが、今の俺の表情では逆効果かもしれない。 「へいへい、邪魔者は消えてやるよ」 ニヤりとしながら手をヒラヒラ振って、ブラッドが出て行くのを確認して、賢者さんの頭を撫でる。 一生懸命こっちの文字を勉強して、たくさん本を読んで色んなことを吸収しようとしている、純真で努力家の普通の人間の女の子。 慣れない異世界での料理もとても頑張っていると思う。 贔屓目抜きにして。 「あんまり無理するなよ」 前髪を耳にかけて額に優しくキスを落とすと、「んぅ」と呟いて身動ぎするが、また、すぅすぅと愛らしい寝息が聞こえて来る。 ここでずっと寝かしておくわけにも行かないし、起こすのも可哀想で、そっと彼女を抱きかかえると、俺は自分の部屋に向かった。 賢者さんの部屋ではなく、彼女を自分の部屋に連れてきてしまうあたり、俺も相当だなと、苦笑する。 相変わらず規則的な寝息をたてている彼女をベッドにそっと下ろすと、自分もその脇に腰掛ける。 嗚呼、なんて可愛いんだろう。 柄にもなく純粋にそんな風に思ってしまう。 それだけ、俺には彼女が眩しいのだ。 寝入るには窮屈そうなブラウスの1番上のボタンを外すと、彼女の白い肌が晒される。 他意はなかったのだが、隙間から覗く鎖骨に色付く赤に、思わず息を飲んだ。 それは昨晩彼女に刻んだ、自分のモノだという証。 「俺以外の前で、あんまり無防備な姿を見せないでくれよ」 この歳になって、こんな青臭い感情を持つだなんて思ってもみなかった。 「ねろぉ…ん、すき」 ふにゃりと笑った寝顔に完全にノックアウトされた俺は、思わず彼女の唇を塞いだ。 柔らかなそれをたっぷり堪能して、解放する頃には、瞳に涙の膜を張った愛らしい彼女が頬を紅潮させて、困ったような顔で俺を見上げていた。 「ね、ろ?」 「愛してるよ、賢者さん」 状況が理解出来ない彼女をベッドに縫い付けて、ブラウスのボタンを丁寧に外していく。 嗚呼、本当に俺は彼女に心底惚れている…。 自分の感情を追い払うように、彼女の唇をもう一度塞いだ。 [newpage] 『優しい指先』ブラ晶 「い、いひゃいれす、にゃにするんれすか、ぶらっどりー」 ケラケラと笑いながら、むにーと頬を引っ張られて、私は抗議の声を上げたけれど、それはほぼ言葉になっておらず…。 むにむにと弾力を確かめるように遊ばれているほっぺたがちょっとだけひりひりする。 「お前、ほんと能天気な顔してんなぁ」 「むぅ」 ぱっと離された手をじとっと眺める。 男らしい手だなぁとまじまじと眺めていると、 「んだよ、俺の手がどうかしたか?」 「いや、ブラッドリーの手は大きいなぁと思って」 「あ?普通だろ?」 「いや、やっぱ大きいですって」 差し出された手に自分の手を重ねてみても、かなり大きさに違いがある。 レノックスもそうだけど、ブラッドリーも男らしい手をしているんだなぁ。 「色んなモンをぶっ潰して来た手だ。 怖いか?」 「ん、怖くなんてないですよ。 こんなに温かくて、優しい手なんです。 今までブラッドリーがどんなことをしてきたのか、私は詳しく知らないですけど。 今のブラッドリーは、優しくて頼りになる、私にとって大切な賢者の魔法使いです」 そう言って、ブラッドリーの指先に、自分の指先を絡めてぎゅっと握った。 「お前さぁ、自覚ねーの?」 「ふぇ?」 「なんでもねーよ」 ブラッドリーは片手でぎゅっと私の手を握ったまま、もう片方の手でまたほっぺたをむにーと引っ張った。 「らから、なんれひっぱるんれすか」 「お前が悪い」 「なんれ…ひろい」 思い当たる節は全くなくて、思わず涙目になる。 でも、私は知ってる。 彼が加減して私の頬に触れてくれていることを。 優しい指先が自分に触れるのが嬉しくて、思わずふにゃりと笑ってしまう。 「おい、なんでそこで笑うんだよ。 気持ち悪りぃぞ」 「ひろい」 「ははっ、揶揄いがいのあるヤツ」 やっと解放されたほんの少しひりひりする頬を片手で押さえながら、私は嬉しくなって笑ってしまう。 彼にとって、揶揄う対象というのは、きっと嫌われてはいないのだろうと思って。 「んー、やっぱり好きです。 すごく好き」 「…は?」 「ブラッドリーの手です。 男らしくて、優しくて、ちょっと意地悪で、でもあったかいから」 へらりと笑うと、ブラッドリーは何故かムスッとして、 「手だけかよ」 とボソッと呟いた。 「そんなわけ無いですよ、私が風邪っぽい時はブランケットを出してくれるし、オズとミスラが戦ってて危ない時は私を助けてくれるし、優しいブラッドリーのこと私は、大好きですよ」 「あー」 ブラッドリーはそれを聞くと満足そうにフフンと笑って。 「そりゃそうだろう。 このブラッドリー様だからな」 うんうん、と頷いて納得している。 この自信満々さも、彼の美徳の一つだよなぁと思いながら。 「ブラッドリーは、私のことどう思いますか?」 「そうだなぁ、ちんちくりんなガキ」 「えっ」 思わずガーンと効果音が流れそうになる。 「…だけどまぁ、一丁前に色々頑張ろうとしてて、可愛げがあるんじゃねぇの?」 「なんか他人事なんですけど!!」 「ハッ」 「んもー!!」 「ったく、聞かなくてもわかんだろう。 この俺様が恋人繋ぎしてやってんだぞ」 「?なんですか?」 「なんでもねーよ」 「えー、教えて下さいよ」 「お前がイイ女になったら考えてやるよ」 「もう!またそうやって子供扱いして!」 ぷんぷんと怒りながら、ポカポカブラッドリーの胸元を叩くけれど、全く響いている気配がない。 いつか絶対見返してやる!と思っても、今はこの軽口が言える距離感が絶妙な気がして。 でも、もっと彼に近付きたいという気持ちも捨てきれなくて。 「こんなに好きなのになぁ」 「あ?」 「何でもないですー!」 「んだと!」 先ほどまで、繋いでいた手をぎゅうっと抱きしめて、私はプイとそっぽを向いた。 赤くなった頬を見られないように。

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#1 まほやく再録1

まほ やく pixiv

「ストップストップ!ちょっと待ってくださいミスラ!」 咄嗟にあげた晶の声は掠れていた。 これでも精一杯勇気を出して吠えたのだが、悪名高い北の魔法使いは止まらない。 晶はジリジリと窓際にまで追い詰められて、もうこれが最後の抵抗とばかりにカーテンの陰に体を隠した。 背中に夜の冷たい空気と、この世界独特の月の重たい気配を感じる。 「どうして逃げるのかわかりません」 「同意もなしにあんなことされたら、誰だって普通は逃げ出します!」 「はぁ。 あんなこと」 ミスラが思案げに手を首にやる。 見慣れた姿も色めいて見えて、晶は無理に視線をそらした。 床に落ちた影がまた一歩近づいてきて、晶の呼吸を苦しくさせる。 「正直な話、そこまで嫌がられるとは思いませんでした。 毎晩のんきに隣で寝ているじゃないですか」 「それは傷のせいですし、一緒に寝ない日だってあるじゃないですか!ミスラだって大人しくしてくれています」 「別に今夜だって暴れたつもりはありません」 「暴れてはいませんけど、でも」 カーテンの端を掴む手に力が入る。 「……キスしてきたじゃないですか」 蚊の鳴くような晶の声を拾おうとしてか、ミスラの端正な顔が寄ってくる。 月とミスラに挟まれて、晶にはもう逃げ場がない。 魔法を使わず、体格差にものを言わせることもしない。 まるで普通の男のように迫ってくる。 晶はどうしてこんな時だけ、と心で深い溜息を吐いた。 もっと卑怯になってくれたら、オズの名前を出せるのに。 「それで、朝までそこにいるつもりですか?冷えません?」 「風邪をひいたらミスラのせいです」 「では看病してさしあげますよ、賢者様」 ミスラは蕾を剥くように、カーテンの隙間から晶の頬をすくい上げる。 ミスラの指が冷たいのか、自分の頬が熱いのか、晶にはどちらかわからない。 ただ久しぶりに正面から見たミスラの瞳に、真っ赤な自分が映っていた。 「こ、こういうことは!」 「はぁ」 「好きな人とするべきだと思います!」 「合ってるじゃないですか」 「え、あの、好きな人とですよ?」 「はい」 「……え?ミスラ、私のことが好きだったんですか?」 「まぁ。 はい」 ポカンと呆けている間に、簡単に二度目を奪われる。 腰を引かれてよろめくと、そのままベッドに投げられた。 「ミスラ!」 「今日はここまでにしておきます。 早く寝ないと襲いますよ」 「言いながら入ってこないでください!」 「は?俺に寝るなって言うんですか?」 「そういう問題じゃ……!」 ミスラに他意はないのかもしれない。 それでも抱きすくめられて、晶の声は喉で詰まった。 たとえ抱き枕の扱いだとしても、胸が鳴るのを止められない。 好きだとか嫌いだとかの前に、緊張で身じろぎさえ出来なくなった。 「寝にくいですね。 肩の力抜けませんか??」 「……誰のせいだと思ってるんですか」 それでもほとんど日課になっている軽口と、さっきまでの冷たい窓際から一転、暖かい布団と二人分の温もりに、ゆるゆると気持ちが解けていく。 閉めそびれたカーテンの隙間から、月が静かに照らしていた。 [newpage] 私の為に淹れてくれる、特別なココアが好きだった。 数が採れない貴重なものを使っているからと、二人きりでいる時にだけ淹れてくれた。 それはネロが出し惜しみをするのも納得の、他では絶対に御目にかかれない美味しさだった。 悪い夢を見て起きた夜、足音を忍ばせてネロを訪ねると笑ってくれた。 「またか賢者さん」なんて口先ばかりで呆れてみせても、一度も追い払われたことはない。 ココアをねだると飲み終わるまで居てくれるので、子供みたいにゆっくり飲んだ。 疲れて食欲が無い時や、気分が落ち込んでいる時は部屋まで持って来てくれた。 特別は、何度重ねても特別なまま。 明日もとの世界に帰るという今夜、私は絶対にこれが飲みたかった。 「ありがとうございます、ネロ。 いただきます」 夜も更けて、静まり返った魔法舎の食堂に声が響く。 正面の椅子に掛けたネロと、私の二人きりだった。 ココアの入ったマグを持ち上げて口元に寄せる。 傾けると、ぐっと濃いカカオの香りが鼻から抜けた。 ラム酒のような誘惑の味。 舌にまとわりつく柔らかな甘さと、喉を落ちていく幸福感に目を瞑る。 ネロ特製のココアをおさめた私の胃は、撫でられたみたいに温かくなった。 この味とも、今夜でさよなら。 「ありがとうはこっちの方だろ。 あんたのおかげで無事に終わった。 ありがとうな、賢者さん」 賢者さん。 そう呼ばれる、最後の一回はどれだろう?ココアみたいにはっきりしていないからわからない。 わからないから、しっかり全部を聞いていなくちゃ。 魔法使いの賢者と呼ばれて、恐ろしいことや難しいこと、悲しいことがたくさんあった。 だけどそのどれからも逃げずに立ち向かって、世界を救って。 その為に長い時間をかけたのに、私が覚えた我儘は、ココアをねだることだけだった。 「そんなこと。 みんなが頑張ってくれたからです。 ……美味しいです。 ネロ」 もう一度マグを傾ける。 もとの世界戻りたくないと、言えるほどには私の恋は実らなかった。 貰えなかったキスの味。 投げられなかった愛の言葉。 他人行儀な優しさも、すべてをこれで誤魔化してきた。 私だけに淹れてくれる、この特別なココアで。 「あ」 油断した。 ポロ、と涙が一粒落ちる。 いいよいいよと湯気が言うので、次から次へとポロポロ泣いてしまった。 感無量でとか、これまでを思い出してついとか、取り繕う暇も無い。 明日から会えないのが寂しくて、失恋したのがつらくって。 行くなと言って貰えないのが悲しくて、私の涙は止まらなかった。 「おいおい、大丈夫か?」 大丈夫です、と言葉にしようとしても出来ない。 せめてみっともなくしゃくりあげるのだけは避けたいと、必死に息を詰めてこらえた。 ネロが渡してくれたナプキンの模様も涙で見えない。 「あー、あのな」 向かいから伸びてきたネロの手が、私の頭にポンと触れた。 撫でてくれるわけじゃない。 置かれただけの心地良い重みが、不思議と涙の栓を閉める。 「俺はあんたを忘れると思う」 閉まった栓がまた開いた。 「ひ、ひどいですネロ!なんでそんなこと……!」 「あー泣くな泣くな!ちょっと最後まで聞いてくれ」 ネロは柄にもなく咳払いなんかして、それから真っ直ぐ私の目を見た。 琥珀の虹彩に光る青色が美しい。 この瞳に似た宝石は、あちらの世界でも見つかるだろうか。 「賢者さん。 あんたが厄災を払ってくれたから、俺はあんたを忘れることが出来るんだ」 優しい声だった。 「あんたが救ってくれた世界で、忘れるまで長く生きられる。 百年でも、二百年でもさ」 頭が軽くなって、ネロの指先が目尻を撫でて離れていく。 不思議なもので、しょっぱかった私の口が、ココアの味を取り戻していた。 飲みたてのように甘くて柔らかい。 泣くのをやめて考えてみる。 ずっとずっと、人間の私が想像も及ばないほど先の未来を。 きっと今生きている人達は誰も死んでしまって、魔法使いのみんなだって、そろっているとは限らない。 私という賢者の存在なんて、御伽話にも出ないだろう。 「……あの、ネロ」 おず、とマグを差し出すと、ネロは意を汲んでくれたようで私の飲みかけのココアを含んだ。 この動く喉を、一生覚えていようと思った。 私は人間なんだから、最期まで覚えていることが出来る。 マグが返ってきたので、私も追ってココアを飲んだ。 すっかりぬるくなっていたけれど、なぜか体が温まる気がした。 私とネロは、今同じもので胃を満たしている。 失恋の為の、必要な儀式のようだった。 「美味しいです」 笑って言えた。 「私の分まで、一生飲んでくださいね」 二人で過ごした夜の色を、甘さをどうか傍に置かせて。 それだけでいいと、やっと思える恋だった。 向こうの世界に戻った私は、ココアを飲んで泣くだろう。 これじゃないこれでもないと繰り返し飲んでは、遠くのネロに想いを馳せる。 彼の傍らには今も、そして百年先の未来も、変わらないあの味があるのだろうかと。 ネロが頷いて、瞬きをした私のまつ毛の先が光る。 最後に残った涙が落ちて、すべて終わったことがわかった。 「ごちそうさまでした、ネロ」 「お粗末様でした、賢者さん」 私が死んでも。 私を忘れてしまっても。 千年生きて。 魔法使い。 [newpage] 南の異変を調べに行って、左足首を痛めてしまった。 元々は少し捻った程度だったのに、冷やそうと足を浸した水が悪かった。 厄災の影響を受けて呪われた森の湧き水は、私の怪我を永遠のものにしてしまった。 欠けたものを欠けたまま、治らず腐らず完結させる。 そういう質の呪いだったらしい。 とはいえもちろん、私は賢者だ。 賢者には魔法使いがついている。 森の呪いはファウストが見事に解いてくれたし、箒の後ろにはシャイロックが乗せてくれた。 天気が悪くて空を飛べなくなってしまうと、空間魔法でミスラと一緒に魔法舎へ戻った。 レノックスの大きな背中でフィガロの部屋まで運ばれて、そこで待っていた先生は、困った顔をしてこう言った。 「ごめんね賢者様。 この怪我は俺には治せないみたい」 「……って。 言われた時には、まさか一生このままかと思いましたけど」 外から雨の音が聞こえる。 朝から降り続いてる雨は、少し前から勢いを増しているような気がした。 「ごめんごめん。 怖がらせるつもりはなかったんだけどね」 私の足は、触られるとまだ痛む。 包帯を替えてくれるフィガロの手は、繊細で優しくて手際がいい。 ケーキとか刺繍とか綿毛とか、そういう何か大切なものに、私を錯覚させてくれる。 「でもそうだなぁ。 このまま歩けない賢者様っていうのも、正直なかなかそそるよね」 「フィガロ、充分怖いです……」 「あはは、冗談だよ。 冗談」 フィガロが治せないと言った私の足は、たしかに彼の魔法では癒すことが出来なかった。 不治と不変の呪いがかけられた森と水は、ファウストに解かれた今もその毒を多くの場所に残している。 変わらないことを望んだ呪いは魔法の強制力を受け付けず、治す為には時間の経過を待つしかなかった。 医療の発展がそこまでではないこの世界で、かつ魔法も効かないのであれば、私に出来ることも、フィガロに出来ることも限られていた。 よく寝て食べて、休むこと。 そんなわけで私は今、ベッドの上で絶対安静の身なのだった。 「さて、今日の治療はこれでおしまいだね。 包帯はどう?キツくないかい?」 「はい。 ハーブがすーっとして気持ちいいです」 「それは良かった。 ルチルが聞いたら喜ぶよ」 広げた道具を畳むフィガロの、普段は見えないつむじが見える。 外見が美しい人は、こんなところにまで清潔感があるものだ。 悪戯心に指先がムズムズしたけれど、手を伸ばす前にフィガロの瞳がこちらを向いた。 「ん?どうかした?」 「いえ!」 慌ててそっぽを向いた先では、雨粒が窓を叩いている。 私の目線を追いかけて、フィガロも同じものを見た。 「こんな天気じゃ退屈だね。 なにか暇を潰せそうな物でも持ってこようか」 「ありがとうございます。 でも大丈夫だと思います」 「そう?」 「はい。 怪我をしてから何日か経ちますけど、毎日誰かしらが遊びに来てくれるんです。 今日はクロエとラスティカが、新しいカーテンを持ってきてくれる予定なんですよ」 しばらくここで過ごすなら、もっと明るくて華やかな内装の方がいいんじゃない? そう言ってくれたクロエの言葉に甘えると、そこからの二人の盛り上がりようはすごかった。 クロエが何か提案すればラスティカがそれに乗っかって、ラスティカが壁や床まで替えようと言うとクロエが色を合わせ始める。 とりあえず今回はカーテンだけで!とお願いをしたものの、買い物にはムルやシャイロックも行くという。 西の魔法使い達は四人でいると、いつもよりずっとマイペースで暴走がちだ。 どんなカーテンが来るんだろうかと、今からちょっとドキドキしている。 「うん、それは素晴らしいことだね。 みんな賢者様のことが大好きなんだ」 「嬉しいですけど、そういうのとは少し違うような……。 ブラッドリーなんて、つまみ食いをした後でネロから逃げる為に来たりしますよ?」 「誰も嫌いな相手の所に逃げてきたりはしないさ。 ネロも君の前だとあまり怖い顔もできないだろうし、ブラッドリーも考えたね」 他には?と促されるまま、これまでのことをつらつらと喋る。 ミチルとリケからは毎日シュガーが届くこと。 シノとヒースが摘んできてくれたシャーウッドの花は、今も枕元で香っている。 オズは何も用が無いような時に来ては顔を見て帰っていくし、アーサーは今は忙しいみたいだけど、カインがカードと中央のお菓子を届けてくれた。 スノウとホワイトはお祭り騒ぎで、オーエンは私の部屋を甘味処とでも思ってるみたい。 勝手に来て、好きに食べて、文句を言って帰っていく。 たまに気に入るものがあると、思いの外長くお喋りしてくれる。 ミスラはなにも変わらない。 夜になるとやってきて、朝まで二人で一緒に眠る。 「こんなところですけど……フィガロ?」 請われて話し出したのに、話せば話すほどフィガロの顔が曇っていった。 こんなことは珍しいので、私の方が弱ってしまう。 笑顔が翳ることよりも、それを私に隠せないことが珍しい。 「まいったね。 不甲斐ないよ」 フィガロの目線を、今度は私が逆に追う。 包帯を巻き直したばかりの足は、やっぱり痛々しく見えた。 「……あの」 「俺だけが君に何も出来ない」 遮られる。 フィガロは多分、共感されることが嫌いだ。 フィガロの痛みや葛藤に、わかったフリをしたら嫌われる。 だからといって私には、きっと永遠に理解できない。 私は人で、すぐに死ぬから。 「……包帯を、毎日替えてくれるじゃないですか」 「誰にでも出来るんじゃないかな、こんなこと。 なんなら次はレノにでも頼もうか」 「でもしてくれたのはフィガロです」 「明日からも?」 「はい。 えっと……多分?」 フィガロは笑ってくれたけど、それは暗くなりがちな雰囲気を壊す為だった。 「いやぁ、ごめんね。 少し拗ねてみせたくなっちゃって」 「ルチルやミチルにも見せてあげたかったです」 「うーん、それが一番堪えるなぁ」 私の左足首の、痛むところに手を重ねる。 フィガロは彼だけの短い呪文を唱えた。 じんわりと熱を持つ感覚があって、すぐにそれが萎むのがわかる。 もう何度も試したように、私の足は治らなかった。 「やっぱり駄目か」 他の二十人に出来ないことを、フィガロだけが責任に感じることはない。 他のみんなと同じように、気軽に部屋を訪ねてほしい。 それを伝えるうまい言葉もまだ持たず、魔法使いほども生きられない。 フィガロから見たら私なんて、赤ちゃんと変わらないだろう。 「フィガロが気にしてくれるのは……」 「うん?」 フィガロと話すのは緊張する。 でも、ちょっと気持ちいい時もある。 「私のことが好きだからですか?」 上目遣いに悪戯めいて、ありえないとわかっているからこそ言える。 お互いにきっと、心を預け合わないことを知っている。 フィガロは自分の為に笑って、私も私の為に笑った。 「それは少し違うけど、そうだね。 それでも、俺が治せなくちゃいけなかったんだと思うよ」 それがお医者さんで、俺っていうことなんだ。 最後にそう言ってフィガロは部屋を出た。 私は特にすることもなく、それと同じくらい出来ることもなくなってしまって、ぼんやり床や、天井を見る。 やっぱりクロエとラスティカに、改装を頼めば良かったかもしれない。 友達になりたいと誓ったのに、私こそ誰にも何も出来ない。 それなのにこんな寂しい部屋にいたら、外みたいに泣いてしまうかもしれなかった。 [newpage] 「きゃっ……!」 ぁああああああああ!! と続くはずだった晶の悲鳴を抑えたのは、魔法ではなくブラッドリーの大きな手だった。 ブラッドリーは必死だった。 大いに慌てた。 晶の声が響き渡れば、オズが駆けつけて来て稲光を落とすだろう。 遅れてやって来た双子は魔法舎中に吹聴してまわり、ネロの耳に入れば美味い食事にありつけなくなる。 ブラッドリーとしては絶対に避けたい事態だった。 同じくらい、よりもっとひどく晶は必死だった。 口を塞ぐブラッドリーの手の中で、更に叫ぼうとしてシルバーリングが歯に当たった。 「ブ、ブブ、ブラッドリー、な、なんで」 晶は裸だった。 入浴の後で体を拭いているところに、ブラッドリーがくしゃみで突然飛ばされてきたのだ。 裸の晶の口を塞いで、騒がないように人差し指を立てている。 シーッと蛇のような吐息で牽制する姿は、強姦魔にしか見えなかった。 「悪ぃ!違うんだってこいつは……不可抗力ってやつだ!な!?だから騒がないでくれ!」 「わかりましたから離れてください!向こうを向いて!」 おっとすまねぇ!とようやく手を離す。 ブラッドリーが背中を向けると、晶は勢いよくしゃがんで自分の体を守った。 「ブラッドリーの馬鹿!」 「だから悪かったって!俺様だって好きで飛んで来たんじゃねぇよ!」 「当たり前です!傷のせいじゃなかったらこんな…!」 「おい、頼むから大声出すなって!」 「ブラッドリーこそ声が大きいです!こんなところ、私だって誰かに見られたら死んじゃいます!」 「ンなことで死ぬかよ!」 「死にます!現に今だって死ぬほど恥ずかしいんですから!」 言い合う内に熱くなってくる。 ブラッドリーはそもそも歯向かわれる事が好きではないし、自分だって奇妙な傷にはほとほと困らされているのに、晶ばかりが被害者面をするのが気に食わない。 文句を言うなら、枕に胡椒を仕込んだオーエンに言ってもらいたい。 ブラッドリーはクソッと吐き捨てた。 「何百年と生きてる俺様が、今更女の裸を見たところでどうにも思わねぇから安心しろや。 見たくて見たわけでもねぇんだし、ましてやそんな貧相な……」 言い過ぎたことに気付いた時にはもう遅い。 晶の「出て行ってくださいーーーー!」の絶叫から、文字通りオズが飛んでくるまでは少しの時間もかからなかった。 「ってことがあってよぉ。 俺様が悪いと思うか?ミスラ」 オズには半殺しの目に合わされ、ネロには茄子のへたさえ貰えずに、カナリアまで敵に回してしまったブラッドリーは、ここ数日まともな食事をとれていなかった。 その上誰からも同情して貰えないので腐ってしまい、ミスラ相手に愚痴をこぼした。 まるで興味ありません、という顔で聞いていたミスラが、晶の名前に眉を顰める。 「見たんですか?」 「あ?」 「賢者様の裸」 ブラッドリーは大袈裟なジェスチャーで肩を落とした。 もう百遍はされた質問だ。 答えるのにも飽きている。 「だーっから!見たくて見たわけじゃねぇんだって!」 「はぁ。 見たんですね」 ミスラはそれから何も言わずに、腕を組んでしばらく静かに考えていた。 やがて何事かを決めたのか、ブラッドリーに向き直る。 「むらっとしました。 あなたを殺してもいいですか?」 「なんっでだよ!」 あまりにもボロボロにされてしまったブラッドリーを見て、晶からのお許しが出たのは翌日だった。

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